Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “元気ですvv”
 



 五月五日は“端午の節句”。子供の日とくくられているものの、言わずと知れた男の子のお祝いで。女の子の成長を祝う、三月三日の桃の節句はお雛様を飾り、こっちでは鍾馗様や武者人形を飾ったり、屋根より高くこいのぼりを揚げたりするのだが、これらの風習、実は案外と新しい。そもそもの本来は、災厄や病を避ける厄払いの行事だったそうで、その発端は何と中国の三国史の時代まで逆上る。紀元前250年頃、楚国の王に仕えていた側近の屈原という人がいたのだが、陰謀によって失脚し、宮中から追われてしまう。こんな故国の行く末を案じた彼は、絶望して川に身を投げてしまうのだが、詩人でもあり聡明で民から慕われていた彼の死を悼み、国民たちは川にチマキを投げ入れて魚が彼の亡骸を食べないようにしたそうで。そこから、川にチマキを投げ入れ、野に出て菖蒲や薬草を摘んではそれを入れた湯に浸かり、邪を払うという風習が生まれた。そんな習いが、節句の中でも重要な五節句のうちの1つとされ、薬草や薬酒で身の汚れを祓ったり、馬に乗って弓矢を射ることで厄を払ったりしたことから始まったのが、端午の節句だと言われている。日本へと伝わったのは奈良時代で、元々は宮中にて厄を払う節句として営まれた行事であったが、紙の兜に菖蒲の飾りをつけての合戦ごっこをしたことや、菖蒲を武芸に励むという意味の“尚武”にかけることで武士らが尊ぶようになり、のちの武家社会に引き継がれると、男の子の誕生と成長を祝う祭りへ様変わりした。災厄や病を避ける厄払いの行事だったものが、武者人形だの飾るようになったのは、武家社会の発展につれての時流の変化のせいともいえて、今のような形へ定まったのは江戸時代は徳川の世になってからだとか。武家では男子が生まれると門口に馬印を飾ったそうで、それを裕福な庶民が真似たのがこいのぼり。よってこちらも発祥は江戸時代。変化発展の流れは七夕やお月見と同じで、それまでの流転の歴史がどんと安定したことを如実に示してもいるような…。


 後世のことはおいといて。
「旗印ねぇ。」
 おや、お館様。脇息を胡座かいたお膝元へ抱え込んでどうされた。何か感じ入っておられますが。
「何〜んかそれって“冷麺始めました”みてぇでサ。」
 おいおい、そんなもんと一緒にしてどうしますか。第一、この時代にはまだ冷麺はない。かき氷もないし、冬に旗が出そうな“鯛焼き始めました”もないから念のため。
「そんなもんはなかろうが、この暑さん中だ、冷やっこいもんでも喰いてぇなとだな。」
 暑さ寒さにお弱いというか、我慢するのが大っ嫌いなお人なだけに、早くも夏日…なんてな陽気が突然やって来るこの頃合いもまた、あんまり得手ではないご様子。小袖一枚という、ともすりゃ当世の下着に間近い恰好で、濡れ縁まで出て来て風に涼んでおられるが、もっと気温が増したなら、はやばやと帷子
かたびら姿にでもなりかねない。とはいえ、このお人が暑さに“負ける”とも思えないので、今のところは単なる“言いたい放題”の延長みたいなものだろが。
「大体、わざわざ旗印を揚げるなんて、ここに御曹司がいますよと宣伝するよなもんじゃねぇか。」
 おっと、話が戻ったぞ。そんなことをしたらば、暗殺者に狙われますかね?
「そこまではどうかしらねぇが、そもそも江戸時代の大名屋敷ってのは、時代劇にあるみたいな大看板だって揚げてなかったらしいからな。」
 あ、それはそうらしいですね。敵襲…はなかろうけれど、国元から上洛して来た謀反の一揆とかに襲われないようにでしょうか、あんなどこぞかの道場みたいな“○○藩上屋敷”なんて書かれた大看板、実は掲げてはいなかった。じゃあ、屋敷町を訪れた人は、どこも似たような門構えばっかで困ったんじゃないかって? そのために門の前に門番さんが立ってるんじゃないですか。どこそこの藩邸を訪ねて来たんですがと尋ねれば教えて下さったそうで、不審者じゃないならそれで十分間に合ったらしく。………って、なんでまた平安時代に江戸時代の話なんか。土地だってこっちは京都が舞台なんだから関係ないし…。
「♪♪♪〜♪」
 まんまとお館様の退屈しのぎに乗せられた筆者なのはともかくとして。
(ううう) 季節は今、新緑も目に瑞々しき初夏を迎えており、桜の季節と一緒にやって来た、花冷えだの菜種梅雨だのに“寒いじゃねぇかこのやろが”とやっぱり文句たらたらだったお館様も、何とかしのぎやすくなった気候に、これでも一息ついていなさるらしい。勿論のこと、とうに炭櫃の蓋も閉じたし、衣替えの準備も着々と進行中。

 「ところで、お前。言っといたもんは摘んで来たんか?」
 「ああ。」

 不意のいきなり、庭先へと声を投げた蛭魔に応じたのは。このクソ暑いのに黒髪に黒い衣紋だと、こんの鬱陶しい奴がと昨日怒鳴られていた蜥蜴の総帥様だったりし。…なんか、やすやすと目に浮かぶようなんですが、その顛末って。手桶とかも一緒に蹴り飛ばしたんじゃないですか?
「ま〜な。」
 ちっとばかり遠い眸をして視線を泳がせた彼ではあるが、これでも…精悍なお顔や雄々しい体躯が頼もしく、たまに主人を迎えにと顔を出す宮中でも、女官たちが噂してやまない偉丈夫だってのに。肝心な御主様からはこうまでの扱い。
「じゃあってことで涼しそうな白い狩衣とか着て来てみな、死に装束か?とか言うに決まってんだぜ?」
「ああ、そりゃあいいな。そういう話でもしてりゃあちっとは涼しいかもしれねぇ。」
 これこれ、お館様。毒を吐くのもそのくらいにしときなさいっての。筆者がちょっかいを出したり出されたりしていたのは、それだけ手持ち無沙汰な彼だったからに他ならず、
「さっき、庫裏に行っておばさんに渡しといたから、湯の用意が出来次第…、」
「やーのーっ。」
 おおっと、またまた思わぬお声の乱入であり。そろそろ柔らかな緑ばかりが覆い始めた荒れ庭を一望出来る濡れ縁経由で、この広間へとつながっている渡り回廊を、庫裏の方から とたとたやって来た小さな足音の持ち主は、
「待ちなさいってばっ。」
 後から追って来るもう少し大きなお兄さんが掛けて来る、制止のお声も振り切っての駆けっこに、途中から興が乗って来たらしく、
「きゃ〜の〜〜〜♪」
「…笑ってるよ。」
「鬼ごっこに擦り替わっとるな。」
 ぱささと軽い音がするのは、一丁前に着付けた柳緑の単(ひとえ)と若葉青の袴がその稚い所作に擦れる音。ひじやお膝はまだ必要ないのではないかというほど寸の詰まった短い腕や脚を、一生懸命にパタパタとたとた振り回し。いかにも幼児体型の重心の高い頭身を、それでもなかなかの安定で保ったまま、ちょこまか翔って来た男の子。
「おやかま様〜〜〜vv」
 えいやっと最後の一歩に勢いをつけ、畏れ多くもぱふんと抱きついた金髪痩躯のお館様のお背
せなへ、そのままグリグリと頬擦りして見せる小さな男の子。ふかふかな頬の頼りない感触が擽ったくて、
「こ〜ら、何を手古摺らせとるか。」
 ひょいと肩から振り返り、腕を素早く回しての捕まえれば、きゃいっとやっぱりはしゃいだお声を上げたるこの子こそ。先の春の日、やっとのこと素性が判明した仔ギツネ坊やの葛の葉こと くうという童子であり。追いついたセナが、お館様のお膝に抱え直されたチビちゃんへ、
「せっかく葉柱さんが菖蒲を持って来て下さったのに。」
 なんで逃げたのと小首を傾げるその横合いから、
「そうだぞ、くう。沐浴はお前、そんなに嫌いじゃなかったろうに。」
 葉柱までもが怪訝そうに眉を寄せた。殺菌作用のあることが判ったのは後世になってからだろが、それ以外にも、刃のような葉に邪を祓う力があるとされている菖蒲の葉。これとかヨモギとかを野に出て摘んで、それを湯に入れたところへ浸かったり、はたまた酒に漬けて飲んだりして邪を祓ったのが当世の“端午の節句”のしきたりであり。ご自身こそ、そういう祭事を司る“神祗官”であらしゃりながら、いやいや元を辿ればその前からだって、あんまり四季のそういうのへ関心がない蛭魔だったものが、書生の瀬那くんを引き取りの、こたびはもっと小さいくうちゃんを屋敷へ預かりのしたのに伴って、そういった祭事も看過しないようになったから不思議なもの。こんな傍若無人なお人でも、ああまで愛らしいお子様がたを前にすれば、親心が芽生えるもんなんだろうねとは、賄い担当のおばさまのご意見だったが、はてさて真相はどこにあるのやら。
「やーの、やーの。」
 いつもは大人しく、お水遊びの延長よろしくで、大型のたらいのお風呂にお兄ちゃんのセナくんと一緒して入って遊ぶ仔ギツネくんが、今日は何故だか“やーの”の連呼。
「…お前、なんか ややこしい菖蒲を摘んで来たんじゃなかろうな。」
「ややこしいってのはどんな菖蒲だ。」
「どっかの侍の呪いがかかってるような池から引っこ抜いて来たとかよ。」
 祟られそうなんで くうが嫌がってんじゃねぇのか? ちゃんと確かめて抜いて来んかいなどと。仮にも清めの祈祷を専門にしているお勤めの陰陽師さんが…それも、当代随一という折り紙つけられてるお人が言うことでしょか。
(苦笑) そんな怪しいものを、この屋敷へ持ち込める訳がなかろうし、それより前の段階の話、
「俺にも一応は感応力くらいはあるっての。」
 それを善きものと断じるか邪として弾くかの判断は個々人によるにしたっても、怪しい気配を帯びてるかどうかくらい、判らない自分ではないと言いたいらしい葉柱であり、
「じゃあ、なんでまた。」
 まだまだ短い腕を精一杯に延ばし切り、大好きなおやまか様のお胸へぱふんとくっついての すりすりと頬擦りをしているこのおチビさん。実は天狐といって、天上世界で神様のお使いとして働く特別な精霊の、それも王族の和子だと判明したばかり。そうまで聖なる存在だから、何かしらを感じ取っての嫌がっているものかと思いきや、

 「うっとぉ、ま〜だ あしょぶのvv」

 ね?とかっくり小首を傾げて見上げる幼子には、
「〜〜〜〜〜。」
 肉薄なお口の口角がひくひくと震え始めたお館様だったが、
「しっかりしろよ〜。お前このごろ、くうに籠絡されまくりだかんな。」
 威厳もへったくれもなかろうよと、耳元で要らないことを囁いた黒の侍従殿を蹴り飛ばしたことで、何とか理性は保たれたらしい模様。
“…まあ、ちっとは加減してくれてるが。”
 ホントにそうなんでしょうか、池の手前の雑草の株に背中を凭れさせての、でんぐり返っての逆さまになって止まった葉柱さん。
(う〜ん) え? 本気出したら有明の月に突き刺す勢いで蹴られて、そのまま敷地の外まで飛ばされてる? うう〜ん、とゆことは手加減してくれて、るの、かなぁ?(苦笑)
「まだ、昼前だぞ? いくらでも遊べようよ。」
 時間はたっぷりあろうがと、懐ろから剥がされまいとしがみついてる幼い童子の、まだまだ細い質のさらさらの栗色の髪を撫でてやると、
「あんね? ゆがたになったら、くちゅばがくんの。」
「くちゅば?」
 セナと葉柱には“はて?”と思い当たらない名前だったが、さすが、蛭魔には覚えがあったか、
「ほれ。あの玉藻とやらの側近の。」
 そういや居ましたな、そんな御方が。
「ああ、確か“朽葉”とかいったっけ。」
「凛々しい方でしたよねぇvv」
 こらこら、セナくん。進さんって人がありながら。
(苦笑) 先だっての騒動で、天狐の長の玉藻様という御方がこの屋敷を訪のうた時、一緒にいらしたお若い侍従のことであり。どうやらこの くうちゃんのお傍衆でもあるらしく、
「ゆがたになったら、おむかいにくんの。」
 それがちょぉっと詰まらないのか、唇を尖らせるくうちゃんだったが、それもその筈、
「何だ、今日は早いんだな。」
 いつもなら、陽が上り切った頃合いにやって来て、晩は夕餉を皆でわいわいと食べて、うとうとしだす頃合いにお迎えが来ているのにと。それとは段取りが違うらしいのへ、蛭魔もちょいと眉を上げたが、

 「あんね。たーもさまが皆ちゃまへ、うーと、くうのこと、お色目すゆの。」
 「…お色目?」

 なかなかに口が達者になって来たのはいいのだが、いかんせん、まだまだ舌っ足らずなものだから、
「…もしかして“お披露目”じゃないでしょか。」
「あ、そかそか、そうか、お披露目な。」
「それで早く帰って来いってか。」
 ああびっくりした。
(笑) きっと一族の皆様への紹介を兼ねての宴か何かがあるのだろうが、
「相変わらず、たーもさまなんですねぇ。」
「ああ。」
 お父様にあたる玉藻様を、どういう訳だか“とと様”と呼ばないくうだってのが、今のところの彼らの抱えてる問題だったりし。何せ、この屋敷との縁を結んだお人のことを“おとと様”と呼んでる関係上、もう一人“とと様”と呼ぶ人が現れるのは、まだまだ幼いくうちゃんにはややこしすぎて把握し切れないらしいので。
「あちらさんはどう思ってらっしゃるのでしょうか。」
「さてな。若いに似ず、寛大な長殿ではあったけれど。」
 それでも…実の我が子が他人の、しかも異種族の男を“とと様”呼ばわりしているのは、あんまり面白い話ではなかろうに。
「そのうち、徹底教育が始まったりしてな。」
「そうなると葉柱さんはなんて呼ばれるのでしょうか。」
「そりゃお前、蜥蜴のおじさんとか、舌が回んねぇ内は“ハバチラ”とか。」
「あ、それ可愛いですvv」
「こらこらお前さんたち。」
 勝手に盛り上がってんじゃないと、当の葉柱が宥めたものの、
「お勉強っていやあ、あの朽葉ってのが、教科書みたいの置いてきやがったんだが。」
「…聞いてねぇし。」
 今更今更。
「お館様、読めるんですか?」
「人間との橋渡しってのがお使いの役目だからだろうな、ほれ、何と日本語で綴ってある。」
 綺麗な紫や緋色で表紙を色付けされた和綴じの本をぱらりめくれば、なるほど墨の色も鮮やかに、どの頁もなめらかな字体の草書で綴られており、
「つか、開いた者の感覚に合わせて内容がなだれ込むって代物だから、そう見えてるだけじゃねぇのかな。」
「え? そんな便利な本があるんですか?」
「ああ。だって俺には、それ、陰の咒字で書いてあるとしか読めねぇし。」
 蛭魔の助手として邪妖成敗にも付き合う“式神”の葉柱なので、人の使う字も多少は読めるが、それだのに今彼らが開いた本の字、彼には馴染みの深い自分たちの世界のそれに見えているらしく、
「うわ〜、さすがは天世界の品物ですねぇ。」
 試しにくうちゃんの前で開いてやれば、肩越しに振り返ったものの、興味ありませ〜んとすぐにもそっぽを向いてしまった。
「…まあな、いきなり行儀のあれこれ、こまかく書いてあってもな。」
 そういう内容だったのね。というか、いくら故国の字でも、こんな小さい子にはまだ読めませんて。
「置いていかれたってことは、これを使って教育して下さいってことでしょか。」
 お傍衆の方が処したことなら、やはりそういう意味じゃないのかなと、セナくんが妥当なところを言ったところが、
「くうはな、三十までなら手を使わないで数えられるんだ!」
 何でわざわざ天世界の教育とやら、刷り込み直さにゃならんのだと、息巻いたお人がいたものの、
「判ったからそこの子煩悩な親ばか親父、暴れるなら帰れ。」
 すかさずの突っ込みが入るところが、このお屋敷ならではで。…ちなみに、葉柱さんは地団駄を踏んだだけですが、お館様。
「冗談はともかく、此処でだって勉強はしてただろうが。」
「まあそうなんだがな。」
 だったら、そんな本なんざ置いてかれて、ムッと来ないのかお前。まるで自分が腐されたかのように、葉柱が憤慨するのも判らないではないけれど。そういった心情を読んでやっての、蛭魔が小さく吐息をついてから、ちらりとセナへ目配せすれば、
「じゃあ くうちゃん、今日は数を数えようね?」
「あいvv」
 それまではじっとぎゅっとお館様のお胸にしがみついての、コアラ状態になってたくうちゃん。セナくんが緋色の単の懐ろから、かわいらしい錦の巾着袋を取り出すのを見ると、黒々とした潤みの強い瞳をますますのこと見開いての、いかにもワクワクっという笑顔になって。するり・とたんと、板の間まで降りて来た。そうしてちょこなんと座った坊やと向かい合い、小さなセンセイ・セナくんが袋から取り出したのは、
「おはじきが8つあります。こっからボクが、ひの、ふの、みと、3つ取ります。」
「あ〜〜〜、やーの。」
「だって、ほら、ちゃんと弾いたんだもん。くうちゃんもパッチンして取ればいいんだよ?」
「う〜〜〜。」
 黒っぽいつやの出ている板張りへ、お顔を伏せるようにくっつけて。散らばったトンボ玉のおはじきを真横から眺めやり。小さな小さなお手々で輪っかを作ると、えいっと手前の1個を弾いたものの、
「や〜。」
「ありゃりゃ、飛んでちゃったね。」
 あらぬ方へと吹っ飛んだおはじきを、セナが拾いにと立ってゆき、
「…まだ無理だろ、そんな高等技術のいる遊び。」
「つか、それのどこがお勉強なんだ。」
 こんな調子で遊んでばかりいるものだから、朽葉さんとやらが危機感を覚えたのかも知れず、
「口惜しいなら、せめておはじきが上手になるよう特訓でもしてやるんだな。」
「いや、だから。」
 これは“お勉強”じゃなかろうが。つか、まだこんな小さいんだから、色々と詰め込むのは早かろにと、至ってお父さんのご意見を並べる葉柱さんへ。そうは言うが、出るとこ出て何も知らなくて恥かくのは結局くうなんだぞと、最初の“出るとこ出て”の引用が微妙におかしいお言いようをなさるお館様だったりし。天世界に合わせるのが癪なお父さんの心情が、重々判っていながら…からかっておいでのお母様。二人で相変わらずの不毛な言い合いに入ってしまわれ、

 「で、結局、菖蒲のお風呂には入らないのかなぁ。」
 「困りましたね、せっかくいい湯加減ですのに。」
 「じゃあ、くうちゃん、お兄ちゃんと入ろっか?」
 「うと、うんっ、はいゆ!」

 おお、何とか無事に端午の節句らしいオチになりそうです、お客さん。
(こらこら) 賄いのおばさまに手を引かれ、とたとた今度は素直に湯殿までをゆく小さなくうちゃんのお背せなをちらり見送って。お館様の金茶の瞳が柔らかく和んだのは、ここだけの内緒。時代が下ればこいのぼりが、男衆たちの数の、ひのふの5匹は泳いだろう、相変わらずにぎやかなお屋敷の、初夏の風景でございました。






  〜Fine〜  07.5.04.


  *le○様、見てますか?
   くうちゃんのもこもこ感が恋しいとのお言葉に、
   ひょいっと乗っからせていただきましたvv
   そういや、初午以降、ご無沙汰してましたものね。
   あれほどの騒ぎがあったっていうのに、相変わらずみたいですvv
(苦笑)

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